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こと自体、妙なことですが、そこに若者がドカッと座ってウォークマンで外界を遮断しマンガに読み耽っているなんて、マンガ以上に珍妙です。しかも、目の前に、お年寄りや赤ちゃんを抱いたおかあさんが立っても気にもとめない。また、まわりのオトナも顔つきひとつ変えずに、見て見ぬふり。こんな光景は、やっぱり“不思議の国、日本”ならではです。
たとえば、韓国では、若者が年配の人に席を譲るなんて常識以前。ソウルの地下鉄で、青年が、遠くに立っているお年寄りをわざわざ自分の席に引っ張ってきて座らせるのを何度も見かけました。
また、パリの地下鉄に乗っていて、おばさんにフランス語でどやしっけられたことがあります。わけがわからずとまどっていると、別の人が英語で、「あなたが座っているのは、お年寄りや障害のある人のための席ですよ」と教えてくれました。
人間、「衣食足りて礼節を知る」とは限りません。物質的豊かさ、イコールこころの豊かさ、とはなかなかいかないようです。いや、もしかすると、この二つの豊かさの間には、なんの関連もないのかもしれません。わたしたちが意識的にこの二つを結び合わせないかぎりは……。
その意味でも、理屈ではなく、実際に体を動かして、身近なところで試してみることが大事なのです。2回、3回と繰り返すうちに、意識せず、ほとんど反射的に行動できるようになりますし、運がよければ、それまで世間の隅っこに縮こまっていた自分が、世の中をふわっとそっくり包み込んで生きているのを発見したりします。
「ひとさまのため」とか「情けは人のためならず」とかいった説教くさいことではなく、まなざしが他者に向かうことで自分自

 

 

 

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